HD25-1II

説明不要の大人気ヘッドフォン。
チャチな外観(個人的には格好良いと思うのだが)からは想像もつかないようなマッシヴな音が、幾多のロックミュージックファンを虜にしている。
厚い低域、前に出る中域、刺激的な高域と、とにかくパワフルでアタッキーな、ガッツのある音を耳にブッ込んでくる。
大音量でロックを聴くと否応にもアドレナリンが噴出してしまう危険な1本だ。

低域は100Hz辺りの響きが素晴らしく、特にベースのグンとくる感じが脳を揺らす。ユニット径が小さいので超低域は控えめ。
中域は広がりを抑えギュッと詰まったような感じでこれまたグイグイ前に出てくる音作り。
高域は力強い。声のエッジはギリギリ刺さるか刺さらないくらいに抑えられていて、10kHz辺りの持ち上げが金物を荒々しく鳴らす。
低域は80Hz、高域は10kHzくらいまでがよく出ている帯域であり、そこを外れた音は薄め。特に超高域はバッサリ切られているような狭さ。
低域にしろ高域にしろ、鳴らない部分を鳴らさないことで強調したい部分を前に出す手法が見られる。
狭いレンジの両端で持ち上がっているのでドンシャリと言えなくもないが、決してミドルが抉れているわけではない。
あくまでも温かみを大事にした、ゼンハイザーらしい音。レンジの狭さも相まって少し古臭くも感じる。
購入してすぐ、一聴して「アナログっぽい」という感想を漏らした記憶がある(アナログなんだけれど)。
レンジも狭ければ空間表現もかなり狭い。PANの振りはわかりやすいが決して音を広げず、ダイレクトに耳に音が届けられる。
この辺が「地味な音作り」とも評される所以だが、ゼンハイザーの音作りに関する哲学を感じた。
老舗メーカーの底力というべきか。音楽を楽しく聴くための音作りをわかっていて、業務用製品であってもそこは決して外さなかった。

そしてこれが最大の特徴だと思うが、モニタリング用途で作られたヘッドフォンらしく、アタック音を強調して鳴らす造りになっている。
余談だが、モニタリング用途と一言に言っても様々なタイプの音作りがあり、時には正反対の性質のヘッドフォンが同じ「モニタリング用途」と言われることもある。
本機は鳴っている音を明確に描くタイプのヘッドフォンであって、決して「ナチュラルに色づけしない音を鳴らす」タイプののヘッドフォンではない。
例えばドラマーがレコーディング中にクリック音を聞き逃さないために装着するといったような用途のもので、明確さが命である。SONYのMDR-900STのようなものだ。
900STに触れると無駄に長くなる危険があるので、閑話休題。
決して温かみを失わずに、広がりそうな帯域を要所要所で細かく抑え、アタック音を強調し、ハッキリとクッキリと音楽を描く。
本来ならばいかなる環境でも正確なモニタリングをするためであろう、このアタッキーな音が実に格好良く仕上がっているのだ。
業務用のくせに音楽らしさを忘れなかったゼンハイザーのプライドに乾杯。
特に1kHz〜2kHz辺りの処理が絶妙。やや高いところにピークを置いた鋭いアタック感が攻めに攻める。
ロックを鳴らすと、太鼓の芯が前に出て来るのでドラムが非常に気持ち良い。シンバルの鳴りはガッシャーンとパワフルに。
ギターはガリっとしたエッジ感が、ベースは詰まった音程感が前に出る。歌も決して引っ込まない。要するに全部前に出る。
ユニットの直進性の良さと、耳までの距離が近い構造もこの迫力に一役買っているのだろう。ダイナミックにガツンと来る。
音の塊が耳に張り付いているような、パワフルでエネルギッシュな表現では数多あるヘッドフォンの中でもピカイチであろう。

というわけで、ロックを大迫力で聴くにはこれ以上の機種はないと言われるほどの魅力があるHD25-1Ⅱである。
音量を上げていくと小さく硬いハウジングが低域で共振するポイントがある。ここからが本機種の本領発揮である。
イヤパッドを換えると、この低域のハウジング内での回りが抜けてしまうのでオススメはしない。
暴れているくらいがこのヘッドフォンの一番オイシイところ。音漏れの少ない機種なので、いつもより音量を上げて爆音で鳴らそう。

ユニット自体の再生能力はさほど高くないため繊細な表現は期待できない。
どんなソースでもマッチョに鳴らしてしまう特化型的な性質もある。
それでも、所有できるヘッドフォンが1本のみという状況なら私は間違いなくこのHD25-1Ⅱを選ぶ。
苦手分野でも何故か聴けてしまえる程度の器用さは持ち合わせているし、ネガティブな要素をねじ伏せる説得力がある。
替えの効かない唯一無二の魅力があるヘッドフォンである。
一言で表すなら「痛快」そのもの。

補足など。

側圧が非常に強いことで有名な本機、頭囲の小さい自分でも慣れるまで暫く時間を要した。
残念なことだが、頭の大きい人や耳への締め付けに弱い人は避けた方が良いだろう。
いくら良い音でも装着していられなければ意味がない。ただし、余程でなければ時間さえかければ慣れるとも聞く。
この側圧があってこその低域の響きだと考えられるので、側圧を弱める方向の改造などは推奨できない。
分割可能なヘッドバンドを上手く使えば、音楽に身を任せてどんなに激しくヘドバンしてもズレないというのも大きな利点である。

改造といえば、いや、改造というまでのことでもないか。
ドライバー1本で簡単に分解できる構造なので、不慮の事故や故障があってもパーツ取替えによる修理が容易というメリットがある。
ケーブルもコネクタが(かなり固いが)刺さっているだけなので、リケーブルも盛んに行われている。専用ケーブルの種類も豊富。
独自規格のコネクタはHD650と互換性があるため、HD650用のケーブルを使うこともできる。ただしプラグ形状の問題により一部使えないケーブルもあるようだ。
純正ケーブルは片出し(なぜか右出し)で、ヘッドバンドの間を縫って逆ユニットまで伸びている。
リケーブルの際にケーブルの太さが変わるとこのルートが使えないため、ハウジングの上下を逆にして両出し状態にする必要があるのが難点。

2012年に発売されたゼンハイザーの新製品MOMENTUMとは搭載ユニットが共通で、兄弟機的な扱いである。
同時期発売のAMPERIORはポータブル用途にインピーダンスが変更されたHD-25。
その他に25周年モデルのアルミ仕様や、アディダスとのコラボレーションモデル、
さらには業務用にインピーダンス違いやヘッドセットモデルなどのバリエーションがある。

witten by nonaka_oz(2013/12/1)