DJ1PRO

白を基調としたポップなデザインが目を引く定番機種。
打ち込みサウンドとの相性の良さに対する定評はよく目にしていることだろう。
おおよその評判通り、明るく硬い音を楽しく鳴らす機種だが、ここでは低域の鳴らし方に特に着目したい。

160〜250Hz辺りの、一般的に「ボワつく」と表現されがちな低域はズバっとカットされている。
その分、80Hz以下の超低域はこれでもかと言わんばかりに量感たっぷりと鳴っている。
この超低域に触れずして本機種を「低域が薄い」などと評するレビューをよく目にするが、耳か機材が腐っているのだろう。
超低域は量もあるが、上の帯域に邪魔されずに出ていることが実に効果的であるように聞こえる。


レンジの広い録音・再生の可能となった現代音楽を鳴らす上で、この超低域の魅力を改めて思い知らされる一本だ。
超低域は、気持ちよいのである。
音響効果的には、音程感のない衝撃音に分類できるだろう。ただの邪魔なノイズだと切り捨てる人間もいるかもしれない。
知らない人は一度きちんとサブウーファーを鳴らしているクラブやライブハウスを体感してみてほしい。
建物自体を揺らし腹の底に響く、音と言うよりただの衝撃波と捉えやすい超低域。
これが、音楽の響きに「迫力」を加え、実に魅力的に彩っているのだ。
このDJ1 PRO、「DJ」の名を冠する通りまさにクラブサウンドである。あの感動を、耳元に。
4つ打ちのキックのズンズン来る感じや、ノイジーにうねるシンベの支配感が、堪らなく気持ち良い。
考えるより先に、腰にクる。これは踊れる!

中域にコワッとした持ち上がりがあり、ヴォーカルが変な声に聞こえてしまうことがある。
高域は刺激的な量を多めに残しつつ痛い部分をギリギリで抑えた、なかなか上手い鳴らし方。
キツいソースだと刺さるが、音楽的なきらびやかさ。天井の低さを感じさせず、ピコピコした電子音が綺麗に抜ける。
上記した4つ打ちキックのビーター感もバツンバツン鳴りまくりで最早ハーコーである。
エッジ感はいかにも洋モノ音響機器という感じの、ジュワッと染み出る感じ。
これらが、削がれた低域のスッキリ感と相まって、全体的にカチっとした硬い音像に仕上がっている。

中域から高域にかけて、誤解を恐れずに言えば「オモチャみたいな、安っぽい音」とも言えるだろう。
そんなシャカシャカしたオモチャ鳴りに、不釣合いなほど本格的な超低域がまさかの融合。
ボワつく低音の響きが少ない分、ズンとした超低域がリズムを引き立て、刺激的な高域が前に出ている。
これが、DJ1 PROを評する再にしばしば用いられる「スピード感」の正体であろう。
このアンバランスさが、結果的に多くの人の心を奪う「打ち込みに合う楽しい音」になっているのだが、
果たして設計者はどこまで計算していたのだろうか…。偶然の産物的な奇跡染みたバランスを感じる。

なかなか特徴的な音の鳴る本機、得意分野にカッチリとハマれば実に楽しく魅力的な一本であるが、音源はかなり選ぶ。
ナチュラルな音は鳴らさないので基本的に生楽器は不自然。特にピアノが恐ろしく駄目。
超低域を積極的に使うラウドロックやメタルも相性が良さそうだが、低域の削がれでパワー不足に感じる。
というかロック全般、生ドラムの皮物が響きづらいので少し寂しい。
大本命の打ち込みサウンドも、超低域をうまく使えていない音源だとただスカスカなだけだし、
処理が甘いとハウジング内でブーミーに回る。質の良さが、問われる。
などと厳しい一面もあるが、それでもこのために持っておいて良かったと言わせる魅力のある、実にハードコアなキックが聴ける。
ソースに合った使い分けが前提なので、初心者にはオススメできない。
打ち込みサウンドをよく聴く人ならば、バリエーションの一つに持っておいて損はないだろう。

補足など。

ULTRASONE特有の「S-LOGIC」機能により独特な音場感を味わえる、と聞いていたが…
正直なところ、あまり気にせず普通のヘッドフォンと同じ感覚で使えている。
空間表現も、密閉型にしては広めだね、という程度にしか感じない。
S-LOGICに関してはかなり個人差があるらしく、効く人には絶大な効果が現れるとか。
ヘッドフォンで前方定位を感じるにはトレーニングが必要とも聞くし、慣れてきたらわかるのかも?

頭が小さいせいか、装着位置が少しシビアに感じる。
特に耳の後ろが密着しないための音逃げで、(おそらくS-LOGICとは別の)音場のねじれを感じることが多い。
ヘッドバンドを頭頂部付近に合わせてやると安定する、ような気がする。あくまで個人の感想。
付け心地は、特に可もなく不可もなく。普通。

ケーブルは脱着可能で1m(ステレオミニプラグ)と3m(標準プラグ)の2種が付属。本体側はステレオミニのねじ込み式。
前者は明らかにポータブル用途を想定しているが、ヘッドフォン自体が大きめなのでそれなりの覚悟が要りそうだ。
遮音性はなかなか良好で音漏れも少ない。

witten by nonaka_oz